【司法書士が解説】売却直前に発覚!父名義のまま&登記と面積が違う家…2つの登記問題を一括解決した事例
「長年空き家だった実家の買主が見つかり、話が具体化してきた。でも、手続きを進めようとしたら、思いもよらない問題が次々と…」
今回は、不動産売却の直前に発覚した典型的な登記トラブルを、当事務所がどのように解決したのか、そのプロセスを詳しくご紹介します。同様のお悩みをお持ちの方は、ぜひご参考にしてください。
ご相談の状況:鯖江市在住 A様より
先日、鯖江市にお住まいのA様(50代男性)が、少し焦ったご様子でご相談に来られました。
【ご相談の経緯】
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・20年前に亡くなったお父様名義の実家を相続したが、自身も持ち家があるため、長年空き家のままだった。
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・「いつかは手続きをしなければ」と思いつつ、費用や手間を考えて後回しにしていた。
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・最近、近所の方から「ぜひ譲ってほしい」との申し出があり、売却を決意。
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・不動産会社に相談し、登記簿(登記事項証明書)を取得したところ、2つの大きな問題が発覚した。
【発覚した問題点】
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・登記名義が20年前に亡くなったお父様のままだった(相続登記が未了)。
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・お父様が生前に増築した部分が未登記で、登記簿の床面積と現況の床面積が異なっていた。
買主様との話も進んでいる中、「このままでは契約に進めないのではないか」とご心配され、当事務所へお越しになりました。
専門家による分析:なぜ、このままでは売却できないのか?
A様のお話を伺い、登記簿を精査した結果、売却を阻む法的な問題点を改めてご説明しました。
問題点1:相続登記の未了
法的な解説
不動産の売買による所有権移転登記は、現在の所有者(登記名義人)から買主へ行う必要があります。
亡くなったお父様が売主になることはできないため、売買の大前提として、まずはお父様から相続人であるA様へ名義を変更する「相続登記」が必須となります。
放置していた場合のリスク
今回は相続人がA様お一人でしたが、もし他にも相続人がいた場合、時間が経つにつれてさらにその子供・孫へと相続関係者が増え(数次相続)、遺産分割協議が非常に困難になるリスクがありました。
問題点2:登記簿と現況の不一致
法的な解説
建物を増築するなどして床面積に変更が生じた場合、所有者は1ヶ月以内にその旨を登記(建物表題変更登記)する義務があります(不動産登記法第51条)。
この登記がされていない建物は、法律的に見ると「現況と異なる不正確な登記のまま放置されている」状態です。
放置していた場合のリスク
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買主の住宅ローン審査への影響
金融機関は、融資対象物件の担保価値を正確に評価するため、登記簿と現況の一致を厳しくチェックします。不一致がある場合、融資が承認されない、または是正されるまで融資が実行されない可能性が非常に高くなります。 -
契約不適合責任の問題
この事実を買主に告げずに売却した場合、引渡し後に「契約内容と異なる」として、買主から代金の減額請求や損害賠償請求、最悪の場合は契約解除を求められる(契約不適合責任)リスクがありました。
解決へのプロセス:司法書士と土地家屋調査士の連携プレー
売買契約の日程も考慮し、当事務所が窓口となり、「相続登記」と「建物表題変更登記」を並行して進めるワンストップサービスをご提案しました。
STEP1:相続登記(担当:司法書士)
まず、当事務所の司法書士が相続登記に着手しました。
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戸籍収集と相続人確定
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お父様の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)等を取得し、相続人がA様のみであることを法的に証明しました。
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必要書類の収集と作成
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A様の住民票や、不動産の固定資産評価証明書などを収集。登記申請に必要な書類を作成しました。
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登録免許税の検討
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今回のケースで適用できる登録免許税の免税措置(例:土地の評価額が100万円以下の場合など)がないかを確認し、費用を抑えるご提案も行いました。
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法務局への登記申請
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すべての書類を揃え、管轄の法務局へ相続登記を申請しました。
STEP2:建物表題変更登記(担当:土地家屋調査士)
相続登記の準備と並行して、当事務所が信頼する提携先の土地家屋調査士に建物表題変更登記を依頼しました。
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現地調査と測量
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土地家屋調査士が現地に赴き、専門の機材で建物を正確に測量し、現況の床面積を確定させました。
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図面等の作成
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測量結果を基に、法務局に提出するための「建物図面」「各階平面図」などを作成しました。
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法務局への登記申請
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作成した図面と共に、建物表題変更登記を申請しました。
解決の結果:約1.5ヶ月で全ての登記を完了し、無事売却へ
司法書士と土地家屋調査士が密に連携し、各手続きを同時進行させた結果、ご相談から約1.5ヶ月で2つの登記手続きが全て完了しました。
登記簿は、権利関係(所有者名義)も物理的現況(床面積)も、法的にクリーンな状態に是正され、A様は一切の懸念なく、買主様との売買契約、そして決済・引渡しへと進むことができました。
完了後、A様からは以下のようなお言葉をいただきました。
「何から手をつけていいか分からなかった複数の手続きを、一つの窓口で全てお任せできたので、本当に手間が省けて助かりました。買主さんにも迷惑をかけずに済み、心から安心しました」
本事例から学ぶポイント
不動産、特に相続が絡む不動産の売却は、ご自身が考えている以上に複雑な問題を抱えていることがあります。今回の事例から学べる教訓は以下の通りです。
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売却を決めたら、まず登記簿の確認を: 契約の話を進める前に、まずは登記簿を取得し、「名義」と「現況」が正しい状態かを確認することがトラブル回避の第一歩です。
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「権利」と「表示」の専門家は違う: 「相続登記」は司法書士、「建物表題変更登記」は土地家屋調査士と、専門家が異なります。
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ワンストップ対応の事務所が安心: 司法書士と土地家屋調査士が連携している事務所に依頼すれば、今回の事例のように、複数の問題をスムーズに解決できます。
不動産の売却や相続でお困りの際は、ご自身で判断される前に、ぜひ一度、我々のような専門家にご相談ください。